2017年1月25日水曜日

ノスタル爺の生活と意見

Compilation "BLEU BLANC SCHNOCK"
V/A 『ブルー・ブラン・シュノック』

 シュノック Schnockとは俗語・町言葉で「年寄り」のこと。フランスでノスタルジーオタクたちにカルト的な人気を誇る季刊誌「シュノック」というのがあります。 副題に曰く「27歳から87歳までの年寄りのためのレヴュー誌」。主に60-70-80年代の文化(テレビ・映画・音楽・政治...)を細部にわたってオタッキーに回想する雑誌です。このエスプリから誕生したラジオ番組が毎週土曜日18時から1時間、題して「ブルー・ブラン・シュノック」(キャスター:アリステール&マチュー・アルテルマン=右写真)、35年の歴史ある頑固なロックFMステーション OUI FM(ウイ・エフエム)の電波を使って全国放送されています。
 私たちはこれまでNOSTAGIE FMに代表されるような、耳にタコができるほどのエヴァー・グリーン・オールディーズばかりを繰り返す懐メロFMの人気の高さを知っています。人間は歳とるものですから、いつしか若い音楽についていけなくなります。新しい音楽を求めなくなります。30代・40代・50代・60代・70代、それぞれの世代はその年齢層に合致したスタンダード・ヒットを好み、容易に懐古趣味に浸れます。だからそれらのFM局は、その過去の時代時代のトップヒットや長い年月生き残っているスタンダード・ヒットさえオンエアしていればいいのです。何年経ったって同じようなプレイリストです。
 しかしインターネットの普及によってシングル盤オタクたちの秘められた世界もYouTubeなどでどんどん公開されていき、人々のノスタルジーは通り一遍のスタンダードだけで済まなくなってきました。このオタクサイトの老舗が、2000年創設のウェブラジオの”BIDE & MUSIQUE"です。"Bide"とは失敗作の意味ですが、商業的に全くヒットしなかったレコードの珍品・逸品を取り上げて、再び笑いものにしたり、逆に再評価したりということでオタッキーな快楽を多くの人々と共有しようというものです。
 「ブルー・ブラン・シュノック」はそういう流れの、知られざる珍品・逸品レコードを大衆的FMステーションでオンエアするというやや冒険的な番組です。そのスペシャリストとして2人のキャスターが、その曲に関する情報やそれにまつわるエピソードなどを語ってくれます。取り上げる音楽は年代的に限定されていて、とりわけ70年代で、80年代は85年をリミットとして、それ以降は除外しています。68年の5月革命がもたらした意識革命が音楽を変えてしまった時期から、81年のFM電波解放であらゆる音楽が大衆化され、メジャーレコード会社の音楽にFMが占領されてしまった時期まで、と解釈することもできます。70年代は、先鋭的な音楽はあっても、AMラジオ(RTL, EUROPE NUMERO 1, RMC、そして国営ラジオ)で限られた音楽番組で流される音楽は自ずとリミットがあり、音楽ファンはレコードを買うしかなかった。シングルレコード全盛期というのはこの70年代だったはずです。その時代にヒットしなかったレコードなど幾十万とあったことでしょう。この埋もれた失敗作の中から宝物を見つけるのが、コレクターたちの喜びだったのですが、ジャズやロックの世界と違い、コレクター界では「ヴァリエテ・フランセーズ」は肩身の狭い、貶められた分野だったのです。
 「ブルー・ブラン」とフランス国旗の3色のうちの2つを頭に持ってきているということは、フランス大衆音楽限定ということを意味します。OUI FMのような頑固はロックFM
はそれまで「ヴァリエテ・フランセーズ」を侮蔑する態度がありました。その環境の中で、この「ブルー・ブラン・シュノック」は、ロックリスナーにもクオリティーが伝わるようなヴァリエテの珍品を発掘するという使命も負わされていたと思います。シングル盤オタク的な面もないことはないけれど、過激すぎることはない。クオリティー再発見の面白さが優先するような中庸さがうまいところです。
 さて「ブルー・ブラン・シュノック」の最初のコンピレーションです。選曲はヴァラエティーに富んでいます。ライナーノーツにこう書かれています。
ここでも当然"クラシックス”が入っている。僕たちも古き良きヒット曲が好きなんだから。例えばコミカルなルノー("Viens chez moi j'habite chez une copine")、テクノ前期のプラスチック・ベルトラン("Tout petit la planète")、ディスコ風なリオ("Sage comme une image")。だけどそれだけじゃなく珍品も入っている。例えばファンキーなクロード・フランソワ("Doucement sur la route”)、キャバレー風なカトリーヌ・ドヌーヴ("Lady from Amsterdam")。そして僕たちはちょっとした洞窟探検者でもあるから、レアものを見つけてしまうこともある。例えばソウル風なエルベール・レオナール("OK")、未来の「フレンチ・タッチ」を先取りしたようなピエール=アラン・ダアン&スリム・プザン("Electronic Mutation")など。これでお分かりでしょう。みんなの好みに合ったものがすべてあるんだ。
CD2枚組で、CD1の副題は "Pop à la Papa"(パパ時代風なポップ音楽)、CD2の副題は"Futur Schnock"(未来の年寄り)。
 傾向としてCD1は古風なシャンソンやベタなイエイエからちょっと浮いてフランス風にポップがかった曲がまとめられていて、デュトロン、デルペッシュ、シェイラ、ミッチェル、ムスタキなど結構フツーにヴァリエテっぽい人たちのちょっとしたポップ冒険の見られる曲や、ゲンズブール作のミレイユ・ダルク("Hélicoptère")、ソロデビュー前のヴェロニク・サンソンのトリオ、レ・ロッシュ・マルタン、クロード・フランソワのサウンドエンジニア、ベルナール・エスタルディがクロード・フランソワの「電話が泣いている」(1974年)のメガヒットのあやかりで作ったムードインスト曲("Le Téléphone")、孤高のジャズトランペッター、チェット・ベイカーがジャン=ポール・ベルモンド映画のサントラ(フィリップ・サルド作)を吹く ("Flic ou Voyou")など。
 CD2は、文字通り未来的で予言的で冒険的な曲を中心に。CD1でも出てきたベルナール・エスタルディの前衛ソウルファンクなインスト("Riviera Express")、フレンチロックの最良の部分ながら日の当たらなかったドッグス("Secrets")、同じく日が当たっても世界的な評価は低かったテレフォヌ("Ex-Robin des bois")、大衆的な大ヒット曲と非大衆的な前衛ポップの両方を作っていたクリストフ(”Macadam")、前衛コールド・ディスコからワールドミュージック(南アフリカ録音)に転身したリズィー・メルシエ・デクルー("Mais où sont passées les gazelles?")、フレンチプログレの孤高バンドとして世界で何百万枚とアルバムを売りながらフランスで無名のマグマ("Soleil d'Ork")...。
 CD2で3組入っているベルギー勢。後年のストロマエの例を出すまでもなく、ベルギーはフランスの数年先を行っていると思わせる人たち。プラスチック・ベルトラン("Tout petit la planète")、リオ("Sage comme une image")、テレックス("Twist à Saint-Tropez")。同じ70年代末から80年代初めまでの、あの頃のブリュッセル。ルー・デプリックとジャン・クリューガーという曲者プロデューサーがいたし、口パクで歌わされたプラスチック・ベルトラン("Ca plane pour moi"はルー・デプリックが歌っている)は非英語初の世界的パンクヒットになった。16歳でデビューしたリオの周りにはジャック・デュヴァル(作詞界では小粒のゲンズブール級に評価された)、ジェイ・アランスキー(未来のジル・カプラン、レミニッセント・ドライヴ)、アラン・シャンフォール(この時期ブリュッセルに移住している)、マルク・ムーラン(テレックスのリーダー。1942-2008)がいた。ここに収められている "Sage comme une image"はかの「バナナ・スプリット」と同じデュヴァル詞/アランスキー曲のコンビの作で、テレックスのマルク・ムーランが編曲しています。この時リオ18歳。私はリアルタイムでアルバム"SUITE SIXTINE"(1982年)を買っていましたけど、この曲(このロングヴァージョン)が、こんなもろにナイル・ロジャース/バーナード・エドワーズ(シック)風なディスコファンクで、こんな奇跡的なグルーヴがあったとは夢にも思っていませんでしたよ。
 「ブルー・ブラン・シュノック」ファンになりましたよ。これからラジオ番組聞くようにしますよ。

<<< トラックリスト >>>
CD 1 POP A LA PAPA
1.  JACQUES DUTRONC "LE RESPONSABLE"
2. DANI "LA MACHINE"
3. 5 GENTLEMEN "SI TU REVIENS CHEZ MOI"
4. JACQUELINE TAIEB "LA FAC DE LETTRES"
5. MICHEL DELPECH "LES GROUPIES"
6. MIREILLE DARC "HELICOPTERE"
7. HERBERT LEONARD "OK"
8. ANNIE PHILIPPE "UNE PETITE CROIX"
9. LES ROCHE-MARTIN "LES MAINS DANS LES POCHES"
10. FRANCOISE HARDY "REVER LE NEZ EN L'AIR"
11. SHEILA "CHERI TU M'AS FAIT UN PEU TROP BOIRE CE SOIR"
12. PIERRE VASSILEU "FILM"
13. EDDY MITCHELL "L'ENFANT ELECTRIQUE"
14. FRANCIS LAI "RAPT"
15. ALAIN SOUCHON "POULAILLER'S SONG"
16. WILLIAM SHELLER "UNE FILLE COMME CA"
17. GEORGES MOUSTAKI "ON EST TOUS DES PEDES"
18. YVES SIMON "LE JOUEUR D'ACCORDEON"
19. PATRICK JUVET "LES VOIX DE HARLEM"
20. CATHERINE DENEUVE "LADY FROM AMSTERDAM"
21. JEAN-PIERRE CASTELAIN "DERNIERES IMPRESSIONS"
22. THE BARONET "LE TELEPHONE"
23. CHER BAKER "FLIC OU VOYOU"
CD 2 FUTUR SCHNOCK
1. PLASTIC BERTRAND "TOUT PETIT LA PLANETE"
2. LIO "SAGE COMME UNE IMAGE"(LONG VERSION)
3. JEAN SCHULTHEIS "CONFIDENCES POUR CONFIDENCES"
4. BERNARD ESTARDY "RIVIERA EXPRESS"
5. ODEURS "YOUPI LA FRANCE"
6. RENAUD "VIENS CHEZ MOI J'HAIBITE CHEZ UNE COPINE"
7. CLAUDE FRANCOIS "DOUCEMENT SUR LA ROUTE"
8. TELEX "TWIST A SAINT-TROPEZ"
9. CHRISTOPHE "MACADAM"
10. HUGUES AUFRAY "C'EST TOI QUI PEUT TOUT CHANGER"
11. PIERRE-ALAIN DAHAN & SLIM PEZIN "ELECTRONIC MUTATION"
12. ALAIN KAN "CLICHES"
13. AMANDA LEAR "MADE IN FRANCE"
14. BUZY "DYSLEXIQUE"
15. TELEPHONE "EX-ROBIN DES BOIS"
16. JACQUES HIGELIN "L'ANGE OU LE SALAUD"
17. DOGS "SECRETS"
18. MAGMA "SOLEIL D'ORK"
19. LIZZY MERCIER DESCLOUX "MAIS OU SONT PASSEES LES GAZELLES?"
20. WEEK-END MILLIONNAIRE "FRENCH MUSIC PAR EXCELLENCE"
21. TAXI GIRL "CHERCHERZ LE GARCON"(SOLITAIRE)

COMPILATION "BLEU BLANC SCHNOCK"
2CD WARNER MUSIC FRANCE 5419727505
フランスでのリリース:2016年10月21日

(↓)LIO "SAGE COMME UNE IMAGE"(LONG VERSION)


(↓)LE BARONET (BERNARD ESTARDY) "LE TELEPHONE"

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