2009年6月22日月曜日

家族の家族は家族


『テルマン・プロッシュ(ごく身近に)』2008年フランス映画
"TELLEMENT PROCHE" エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカッシュ監督


主演:ヴァンサン・エルバーズ,イザベル・カレ,フランソワ=グザヴィエ・ドメゾン,オードレー・ダナ,オマール・スィ,ジョゼフィーヌ・ド・モー...
フランス封切:2009年6月17日


 トレダノ&ナカッシュの前作『Nos jours heureux (われらが幸福の日々)』(2005年)は娘がそのDVDを何十回も見ていて、細部まで暗記するほどのカルト・ムーヴィーになりました。コロ(コロニー・ド・ヴァカンス、子供のためのヴァカンス合宿)を舞台に、手に負えない子供たちと、問題の多いアニマトゥール(学生アルバイトのモニター/世話係)たちの間に繰り広げられるさまざまな衝突や事件の日々が過ぎるにつれて、ひとつの連帯が生まれていくという筋書きです。キャンプファイヤーの夜、およそモテそうもないメガネ&やせっぽちの子が、へたくそなアニマトゥールの弾くギターを取り上げ、ドゥービー・ブラザースの「ロング・トレイン・ランニング」のイントロを弾くやいなや、みんな総立ちで踊りだし、一躍スターになったこのメガネ君はその夜何人もの女の子たちに囲まれてテントで眠る、というシーンは何度見ても感動的です。
 トレダノ&ナカッシュの新作は家族というたいへん厄介なものをテーマにしています。例えば男と女が愛し合って結婚します。そこまではいいのですが,結婚するということは結婚相手の家族とも家族関係になるということを多くの人は前もって考えていない。その未知の家族が「身内」として自分の生活に関わって来て,限度なく侵入してきたらどうするか。それは初めは大変煩わしいものに違いありません。しかし撃ち落としても撃ち落としても攻めてくるこの身内というインヴェーダーたちとの全面戦争の末,もしも和平が訪れるとしたら...。
 ナタリー(イザベル・カレ)とジャン=ピエール(フランソワ=グザヴィエ・ドメゾン)とロクサンヌ(ジョゼフィーヌ・ド・ボー)は血のつながった兄姉妹であり,定期的に郊外新都市のクレトゥイユにあるジャン=ピエールの家に集まって夕食を共にします。3人が集まるということはそのそれぞれの家族も集まるということで,その夜,ナタリーは夫のアラン(ヴァンサン・エルバーズ)と一瞬たりともじっとしていることができない超アクティヴな息子のリュシアンを連れていき,ロクサンヌは自分の勤めるスーパーマーケットでその日に出会ったばかりの黒人医師のブルーノ(オマール・スィ)を連れていきます。迎えるジャン=ピエールの家には,エリートブルジョワ志向を絵に描いたような妻のカトリーヌ(オードレー・ダナ)がいて自慢のアメリカ料理でもてなし,数種の外国語と数種の楽器を英才教育で習得した娘ガエルがいつ終わるとも知れないドイツ語の歌や楽器演奏のショーを披露します。こういう何の喜びもない夕食会は,一切コントロールがきかない子供リュシアンの大暴れをきっかけに,全員入り乱れてのバトルロイヤル状態で終わります。ふつうだったら,これで全員けんか別れで絶交となるんですが,この複合家族関係は続くのです。
 元クラブ・メッドのG.O.(ジー・オー)で,客を乗せるという才能があると思い込んでいるアランは,失業と不定期アニマトゥール(大ショッピングセンターなどでのイヴェントで,呼び込みや司会や即席ショーをするのが仕事)の間を行ったり来たりしながらも,まだ「いつかはオランピア劇場の舞台に立つショーマン」になる夢を捨てきれない,未成熟な40男です。義兄のジャン=ピエールは二流弁護士ですが,妻カトリーヌへの盲目的な愛が過ぎて,その浪費とボーダレスなブルジョワ志向を許容するものだから常に金に困っています。カトリーヌは娘ガエルの英才教育のため,信仰などあっちむけホイで,地区で最優秀とされるユダヤ人私立校に入学させますが,その熱心なPTA付き合いの結果,いつしかカトリーヌの家はユダヤ人ラビの開く教徒集会場と化してしまいます。またナタリーは,職場の同僚のパキスタン人が住居を追い出されたと言うので,2-3日ならば家に泊まってくれていいわよ,というひと言の結果,いつしかナタリーの家はサロン,台所,風呂場,物置まで数十人のパキスタン人が寝泊まりするようになってしまいます。映画は片方にエルサレム,もう片方に不法滞在移民センターという極端にシュールな場面展開になります。
 いっぱいつまり過ぎているので,いちいちこんな風に書いていったらきりがなくなりますから,いい加減にしますが,非美人でヒステリックで思い込みの激しいロクサーヌ(ジョゼフィーヌ・ド・モー。『われらが幸福の日々』にも出てました。貴重なキャラクターの女優)と,病院医師でありながら日々人種差別と闘いながら生きるブルーノ(オマール・スィ。TVカナル・プリュス出身。『われらが幸福の日々』にも出てました。よいキャラ)の二人に繰り返される「ジュテーム・モア・ノン・プリュ」ドラマも,めちゃくちゃに面白いです。ロクサーヌがブルーノに詫びの言葉を言いに行く時に,極端なミニスカートをはいていくところなんか可愛いすぎて涙が出ました。
 軸は夢見がちで未成熟で不幸な40男の二人,アランとジャン=ピエールなのですが,この世界も環境もまるで違う二人の「義兄弟」が,さまざまな事件の末に,実は本当にごく身近な似た者同士であるということを悟るというのが,この映画の流れです。
 クラブ・メッドのG.O.というのはある種プレイボーイでないとやってられないような職業ですが,この元G.O.のアランもまだ優男ですから,たまに若い娘を誘惑しようというベースケ心が働きます。家にベビーシッターで来た娘を射止めようと接近し,まんまとその娘のホームパーティーに潜入します。そのパーティー中,ディスコタイムが始まります。そうすると昔の職業意識がむらむらとわき上がってきて,アランはお立ち台に登って,ディスコダンスのリード役になってしまうのです。(この時の曲はクラブ・メッド・ディスコの定番,マイケル・ゼーガー・バンド「レッツ・オール・チャント」です!)。件の娘のダチが「あんたのおじさん,なかなかやるじゃん」なんて耳打ちします。そしてステージタイムが終わって喉が乾いて台所に行くと,その娘の母親がいます。大きな体のこのおばさんは,アランを見て「あたし,あんたのこと見覚えあるよ,XXXショッピングセンターのイヴェントで司会してた人でしょ?」と言うのです。このひと言でアランは無防備になってしまうのです。そして打ち解けてしまった二人は,サロンから聞こえてくるバラード曲に合わせてチークダンスを踊ります。アランはこの女の肩に顔を埋めておいおいと泣き出してしまいます。娘を誘惑しようとして来たのに,逆に娘の母親から誘惑されてしまったのです。この時の泣き声は,日本語で言うところの「とほほほほ....」なのです。

 この映画は6月17日にフランスで封切になり,評論家筋のネガティヴな意見などどこ吹く風で,入場者数ボックスオフィス1位になっています。私と娘が行った6月21日の日曜日も映画館は満員で,上映終了時に大拍手が上がりました。どんなにエキセントリックな個性であれ,人は家族としてつながれるんだ,ということでしょうか。セゴレーヌ・ロワイヤルではないけれど,今,われわれが必要なのは「フラテルニテ Fraternité 兄弟愛,友愛」なんでしょうよ。

↓ 『テルマン・プロッシュ』予告編)

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