2009年6月6日土曜日

フランス発B級インターナショナル・ポップの楽しみ



Anarchic System "Cherie Sha la la"(1972-1974)
 アナーキック・システム『シェリー・シャ・ラ・ラ』

 Anarchic System "Generation" (1975-1976)
 アナーキック・システム『ジェネレーション』


 ことの始まりはポール・ド・センヌヴィルという男です。新聞社やテレビ会社に勤めた後、レコード会社ディスクAZに入社して音楽の仕事を始めます。当時のAZの社長はリュシアン・モリス(1929-1970)で、ミッシェル・ポルナレフをデビューさせた人ですが、ダリダとの結婚離婚が引き金になって70年に自殺してしまいます。センヌヴィルはAZでポルナレフ担当になり、「忘れじのグローリア - Gloria」、「渚の想い出 - Tous les bateaux tous les oiseaux」、「想い出のシンフォニー - Dans la maison vide」を作曲してポルナレフに歌わせます。その他(往々にしてオリヴィエ・トゥーサンとの共作曲としてクレジットされていますが)ダリダ、クロード・フランソワ、ミッシェル・トールなどに曲を提供する一方でリュリアン・モリスの後釜でディスクAZの社長になります。そして76年に独立して、デルフィーヌというレコード制作会社を設立して、リシャール・クレイデルマン(国際読みではリチャード・クレイダーマン。本名フィリップ・パジェス)にセンヌヴィル曲「渚のアデリーヌ - Ballade pour Adeline」を録音させ、これが全世界で22百万枚という超メガヒットになります。デルフィーヌはその他にニコラ・デ・アンジェリス(ギター)、ジャン=クロード・ボレリー(トランペット)などのインストスターをでっち上げ、イージーリスニング/ムード音楽の大レーベルとなります。
 このセンヌヴィルのイージーリスニング路線の最初期の試みにポップ・コンチェルト・オーケストラ(Pop Concerto Orchestra)というのがあり、これはオリヴィエ・トゥーサン(共作者です)がヴォーカリストとしてフィーチャーされたりもしている、ムードポップインストバンドで、1973年からレコードを発表していて、セミヌードの女性をジャケットに使ったりしています(ムード音楽ですから)。
 これと平行してセンヌヴィル+トゥーサンがでっち上げた(と言っていいと思いますよ)バンドが、このアナーキック・システムです。これはもともとは北フランス、ノール県の主邑リールの5人組でジル・ドヴォス(ヴォーカル)、ジャック・ドヴィル(ヴォーカル/ギター)、パトリック・ヴェレット(ベース)、ミッシェル・デュイ(ドラムス)、クリスチアン・ルルージュ(キーボード)という編成でした。センヌヴィルが最も興味を持ったのは最後のクリスチアン・ルルージュで、当時誰でも彼でも操作できるわけではなかった電子楽器ミニモーグの優れた使い手であったことから、センヌヴィルはこのバンドに当時の世界的ヒット「ポップ・コーン」(ガーション・キングスレー作/ホットバター)のカヴァーヴァージョン(ヴォーカル入り!英語!)を録音させます。星条旗に"Pop Corn"と書かれただけのシングル盤ジャケは多くの人たちを「ああ、アチラものか」と勘違いさせたでしょうが、1972年、この英語ヴァージョンはフランスとその近隣国で70万枚のヒットとなります。気を良くしたセンヌヴィル+トゥーサンはクリスチアン・ルルージュに「ポップ・コーン」と全く同じモーグ音色とリズムで、ビゼー作曲「カルメン」を料理させ、第2弾シングル「カルメン・ブラジリア」をリリースしますが、これは本当に笑えます。アレンジャーがエルヴェ・ロワという人で、このあと1974年に「エマニエル夫人」テーマを作曲した人でした。
 実はこのバンドは出自がゴリゴリのハードロックで、ディープ・パープル、ブラックサバス、ユーライア・ヒープのフォロワーであったのですが、アメリカ国旗やアナログ・シンセ・ポップという軽めの方向でヒットしてしまったので、センヌヴィル+トゥーサンは強引にユーロ・バブルガム系の軽量級ポップバンドに変身させようとします。73年の「シェリー・シャ・ラ・ラ - Chérie Sha La La」とか74年の「オオ・マイ・ラヴ・アムール - Oh My Love Amour」などがそうですが、タイトルからも感じられる無国籍性ねらいが、フランス発B級インターナショナル・ポップのうれし恥ずかしなんですね。
 このアナーキック・システム(フランスではやはり土地風にアナルシック・システムと呼ばれる場合が多いようです)の72年から76年までのほとんど全録音が、マジック・レコーズから2巻でCD復刻されました。


 これが1巻めのAnarchic System "Cherie Sha la la"(1972-1974) アナーキック・システム『シェリー・シャ・ラ・ラ』で、「ポップ・コーン」や「カルメン」のシンセポップや、バブルガム系の軽ポップ・ロックがあったり、ジェスロ・タルみたいなバロックでプログレなインストがあったり...とにかくこのバンドのやりたいことは一体何なのか、さっぱりわからない、なんでもできる器用貧乏ポップです。また当時のポップミュージックの流行りどころを、あちこちからパクってちょっと作りを変えて、というお手軽折衷主義も随所に見られ、元ネタ探しも楽しい20曲です。

<<< トラックリスト >>>
1. Cherie Sha La La
2. Carmen Brasilia
3. Marina
4. Royal Summer (vocal version)
5. Pop Corn (vocal version)
6. Barbara
7. Pop Corn (instrumental)
8. Royal Summer (instrumental)
9. Road Master
10. Elga
11. Arabian Melody
12. Oh My Love Amour
13. See me, hear me
14. Pussycar c'est la vie
15. Rock and Roll is Good for you
16. Charmer Rock
17. Marjorie so tenderly
18. Starlight
19. Mini
20. Suspense

Anarchic System "Chérie Sha la la"
Magic Records CD 3930839
フランスでのリリース:2009年5月24日




 こちらが2巻めのAnarchic System "Generation" (1975-1976) アナーキック・システム『ジェネレーション』で、1975年発表のアルバム「ジェネレーション」全7曲に、76年のシングルとBサイド曲など5トラックを追加したものです。まあ、白眉は18分を越す「ジェネレーション」ロングヴァージョンということなんでしょうが、これはおらが国さのレア・アース「ゲット・レディー」(あるいはおらが国さのアイアン・バタフライ「イン・ナ・ガダダビダ」)みたいなもんで、長いということだけでDJさんを助けるという任務を果たせる1曲です。無意味に長い。これでサイケデリックにトリップできるという人や、ダンシングピストでメディテーションできるという人はそんなに多くないんじゃないかしらん。同じアルバム収録曲がまったく傾向の違うラグタイムやジャイヴやビーチ・ボーイズ風で、メタル系長髪と黒革上下とハーレイダヴィッドソンのジャケとは何の関係もないところがすごいです。ボーナストラックでは、めちゃくちゃにファンキーなインストの10曲めがエロ映画サントラっぽくて素敵です。12曲めの「ディープ・スロート」って期待して聞くとがっかりします。

<<< トラックリスト >>>
1. Generation (long version)
2. Nana Nana Guili Guili Gouzy Gouzy
3. 1945
4. Good morning love
5. Wish to know why
6. So is life, sad is life
7. Generation (short version)
8. I made up my mind to make love
9. Daddy, Mammy, Juddy, Jimmy, Jully and all the family
10. Sugar Baby Mission Space Recording
11. Stop it
12. Deep Throat

Anarchic System "Generation"
Magic Records CD 3930840
フランスでのリリース:2009年5月24日



 
 
 

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